「査定依頼は月30件来ているのに、媒介契約は2〜3件しか取れない」「一括査定サイトに広告枠を取られて、クリック単価ばかり上がっていく」。不動産売却の広告運用の相談は、ほとんどがこのどちらかです。原因は、査定依頼をすべて同じ1件として数えていることにあります。築古の戸建てを500万円で売りたい依頼と、6,000万円のマンションを売りたい依頼では、受け取れる仲介手数料が約9倍違い、媒介まで進む割合も検索した語によって大きく変わります。この記事では、媒介1件・成約1件から逆算して「査定依頼1件にいくら払えるか」を出し、検索語句の分け方、配信地域、査定フォーム、学習させる成果、表現の注意点までを、運用の手順で書きます。買い手・借り手側の集客は不動産の広告の記事で別に書いています。
この記事の結論
- 01査定依頼1件の価値は、物件価格×査定→媒介→成約の割合で決まる。説明用の数字で、3,000万円の物件なら1件約118,000円、500万円なら約26,000円。
- 02判断はCPAではなく媒介1件あたりの費用で行う。CPAがいちばん安い「査定」の語より、CPAが高い「相続・空き家」の語の方が媒介単価は安いことがある。
- 03査定依頼から媒介までは数週間〜数か月かかる。学習させるのは訪問査定か媒介契約にし、配信地域は検索した人の居場所ではなく物件の所在地で考える。
査定依頼1件の価値は、物件と事情で何倍も違う
売却の仲介で受け取れるのは、売主からの仲介手数料です。上限は宅地建物取引業法で決まっています。
仲介手数料の上限(売主側)
(売却価格×3%+6万円)+消費税
価格400万円超の場合の速算式。3,000万円なら1,056,000円(税込)です。
低廉な空家等の特例
800万円以下の物件は 30万円+消費税まで
2024年7月施行の改正で対象が800万円以下に広がりました。自動では適用されず、売主との合意が前提です。500万円の物件なら、通常の上限231,000円に対し、合意すれば最大330,000円(税込)。
広告で使う数字は、手数料そのものではなく「査定依頼1件の価値」です。査定依頼から成約までの3つの段階の割合を掛けて出します。
査定依頼1件の価値 = 仲介手数料 × 査定依頼→訪問査定 × 訪問査定→媒介契約 × 媒介契約→成約
説明用の割合:40% × 35% × 80% = 11.2%
| 売却価格 | 仲介手数料(上限・税込) | 査定依頼1件の価値(11.2%) | 許容CPA(広告に30%) |
|---|---|---|---|
| 500万円(通常) | 231,000円 | 25,872円 | 7,762円 |
| 500万円(特例に合意) | 330,000円 | 36,960円 | 11,088円 |
| 1,500万円 | 561,000円 | 62,832円 | 18,850円 |
| 3,000万円 | 1,056,000円 | 118,272円 | 35,482円 |
| 6,000万円 | 2,046,000円 | 229,152円 | 68,746円 |
商圏の物件価格帯が分かれば、許容CPAの上限が見えます。都心のマンションが中心の店舗と、郊外・地方の戸建てが中心の店舗では、同じ「不動産売却」の広告でも、払える金額が4〜9倍違うということです。他社の事例のCPAを自社の目標にそのまま持ち込めない理由はここにあります。
実務では、問い合わせの段階で物件の種別と所在地、おおよその広さを取り、その時点で「この依頼の見込み価格帯」を反響管理に残しておきます。これが後で書く「価値を付けて広告に戻す」ための材料になります。
検索語句を「事情」で分解する
不動産売却の検索は、同じ「売りたい」でも段階と事情がまったく違います。Google広告のキーワードプランナーで、主な語の全国の月間検索数(2025年10月〜2026年9月の平均)を見ると、次のとおりです。
| キーワード | 月間検索数(全国) | 検索している人の段階 |
|---|---|---|
| 不動産 売却 | 約15,600 | 調べ始め〜依頼先探しまで混在 |
| マンション 売却 | 約4,300 | 物件種別が決まっている |
| 不動産 買取 | 約3,700 | 早く・確実に現金化したい |
| 不動産 査定 | 約3,000 | 依頼先を探している |
| 空き家 売却 | 約2,000 | 事情がはっきりしている |
| 相続 不動産 売却 | 約1,200 | 事情がはっきりしている |
| マンション 売却 相場 | 約490 | 価格を知りたい段階 |
キーワードプランナーの数字は丸めた概数で、実際の運用では「地域名+」の形になるので件数はこの数十分の一です。ここで見るべきなのは件数より、どの語から来た依頼が媒介まで進むかです。説明用の数字で、語の型ごとに媒介1件あたりの費用まで出すとこうなります。
| 検索語句の型 | CPC | CVR | CPA | 訪問査定 | 媒介 | 媒介1件あたり |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 地域名+不動産査定 | 300円 | 6.0% | 5,000円 | 40% | 35% | 35,714円 |
| 地域名+マンション売却 | 250円 | 4.0% | 6,250円 | 45% | 35% | 39,683円 |
| 相続・空き家+売却 | 200円 | 3.0% | 6,667円 | 55% | 45% | 26,936円 |
| 地域名+売却相場 | 150円 | 1.0% | 15,000円 | 15% | 30% | 333,333円 |
許容できる媒介単価は、3,000万円の物件で手数料1,056,000円×成約80%×広告に回す30%=253,440円です。CPAの順に並べると「査定」が最優秀ですが、媒介まで追うと「相続・空き家」の方が安い。事情がはっきりしている人は、訪問査定に進む割合も、媒介を任せる割合も高いからです。
相場の語は、除外せずに受け方を変える
「売却相場」の語は、このままだと許容を超えます。ただ、除外はしません。相場を調べている人は、数か月後に査定依頼をする人でもあるからです。当社の自社運用でも、目標の費用対効果に届かないキャンペーンの検索語句を分析したところ、29%が価格・相場を調べる語句でした。この時は除外ではなく、見出しを相場の答えに寄せた内容へ差し替えています。
不動産売却でも同じで、相場の語は別の広告グループにして、着地先を「地域・種別ごとの成約価格の目安」と「机上査定」を並べたページにします。入札は媒介単価から逆算した上限CPCで抑え、査定の語とは予算を分けます。
買取の語は、自社が買取をやっているかで決める
「不動産 買取」の語で来る人は、仲介で時間をかけて売るより、早く確実に現金化したい人です。自社や提携先で買取ができないのに、仲介の査定ページに着地させると、媒介率は大きく下がり、相手の期待ともずれます。買取ができるなら、仲介とは別キャンペーンにして、買取の条件(現況のまま・期間・費用負担)を着地ページで先に示します。
一括査定サイトと、同じ土俵で競らない
「不動産 売却」「不動産 査定」のような地域名の付かない語は、一括査定サイトが強く入札している語です。一括査定サイトは、1件の依頼を複数の会社に送れる構造なので、1件のクリックに払える金額が仲介会社1社とは違います。同じ語で入札額を競えば、まず勝てません。
地域の仲介会社が勝てるのは、次のような語です。
- 地域名が付く語:「市区町村名・駅名・町名+売却・査定」。一括査定サイトも地域名で入札していますが、地域に詳しい会社のページの方が、着地後の反応は良くなりやすい。
- 事情が付く語:「相続」「空き家」「住み替え」「離婚」「任意売却」など。事情ごとの手続きや注意点まで書いた着地ページで受けると、媒介率が上がる。
- 物件の特徴が付く語:「再建築不可」「借地権」「古家付き土地」など、扱える会社が限られる物件。件数は少ないが、競り合う相手が少ない。
地域名の付かないビッグワードは、インテントマッチ(旧・部分一致)で広く拾う入口としては残してかまいません。その場合も、検索語句レポートで地域名・事情の付いた語句を見つけて、それぞれの広告グループに移していきます。
配信地域は、物件の所在地で考える
売却の広告で見落とされやすいのが、売主が物件の近くに住んでいるとは限らないことです。相続した実家を売る人は、多くの場合、別の地域に住んでいます。転勤で空いたマンションを売る人も同じです。

Google広告の地域設定には、「対象地域に所在地がある、または対象地域に関心を示しているユーザー」と「対象地域に所在地があるユーザー」の選択があります。配信を店舗の周辺の「所在地」だけに絞ると、東京に住んで地方の実家の売却先を探している人には、広告が出ません。
- 地域名を含むキーワード(「○○市 不動産売却」等)のキャンペーンは、配信地域を全国にするか、「所在地または関心」の設定にする。キーワードの地域名で商圏を絞れているので、配信地域で二重に絞る必要がない。
- 地域名を含まないキーワード(「相続 不動産 売却」等)のキャンペーンは、商圏とその周辺に配信地域を絞る。こちらは地域を絞らないと、全国の対応できない依頼が来る。
- 商圏外の依頼の割合を毎月見る:査定フォームで物件の所在地を必須にし、商圏外の依頼が1割を超えたキャンペーンは、地域設定かキーワードを見直す。
査定フォームは「机上」と「訪問」で分ける
査定依頼の入口は、データだけで概算を出す机上査定と、物件を見て出す訪問査定に分かれます。どちらを入口にするかで、CVRと訪問査定に進む割合が入れ替わります。
- 机上査定:入力の負担が軽く、CVRは高い。その代わり「価格だけ知りたい」人が多く、訪問査定に進む割合は下がる。相場の語・ビッグワードの受け皿に向く。
- 訪問査定:日時の候補まで入れてもらうので、CVRは下がるが、来た依頼の多くはそのまま訪問につながる。事情の付く語・地域名の付く語の受け皿に向く。
フォームの項目は、物件の種別・所在地(町名まで)・おおよその広さ・売却の時期・連絡先までに絞ります。所在地と種別は、商圏の判定と見込み価格の推定に必要なので削りません。築年数・ローン残高・間取りのような細かい項目は、訪問の前の電話で聞けば足ります。電話の依頼も多い業種なので、通話の計測を入れて、通話時間の短いもの(間違い電話・営業電話)は成果から外します。
折り返しまでの時間を、広告の数字と並べて見る
売却の依頼者は、自社と並行して一括査定サイトや他社にも依頼していることが多く、最初に連絡が来た会社から訪問の日程を決めていきます。そのため、依頼から最初の連絡までの時間が、訪問査定に進む割合を大きく左右します。反響管理に「依頼の受付時刻」と「最初の連絡がついた時刻」を残し、1時間以内・当日中・翌日以降の3つに分けて訪問査定の割合を並べてください。翌日以降の依頼で割合が大きく落ちているなら、広告の改善より先に、受付の体制か配信の時間帯を見直す方が効きます。夜間や休日に依頼が多いのに折り返しが翌営業日になる店舗では、その時間帯の入札を下げるのも1つの手です。
学習させる成果:査定依頼ではなく、訪問査定と媒介
査定依頼を成果にして自動入札を回すと、入札は「査定依頼を出しやすい人」に寄っていきます。机上査定で価格だけ知りたい人、商圏外の人、売る予定のない人です。依頼の数は増えても、媒介は増えません。中間地点で学習させた時の問題は、MCVで学習させるリスクの記事で詳しく書いています。
ただし、売却は依頼から媒介、媒介から成約までに時間がかかります。説明用のモデルで、査定依頼から媒介契約に至るまでの日数の分布を見ます。
Google広告のオフラインCVは、原則としてクリックから90日以内の成果しか戻せません。このモデルでは、媒介の約16%は90日を過ぎてから決まり、成約は媒介からさらに数か月後です。成約を学習の成果にすることは、売却ではほぼ現実的ではありません。現実的なのは次の組み合わせです。
| 成果 | 依頼からの日数の目安 | 使い方 |
|---|---|---|
| 査定依頼 | 当日 | 観測用(入札の対象から外して列として見る) |
| 訪問査定の実施 | 数日〜2週間 | 学習させる成果。見込み価格帯の値を付けて戻す |
| 媒介契約 | 数週間〜数か月 | 件数が足りれば学習の成果に加える。足りなければ月次で媒介単価を集計 |
| 成約 | 媒介から数か月 | キャンペーン別の集計で、許容CPAの前提(成約率)を見直す |
訪問査定に値を付ける時は、図1の「査定依頼1件の価値」と同じ考え方で、物件の見込み価格帯ごとに金額を変えます。たとえば3,000万円帯の訪問査定は、手数料1,056,000円×媒介35%×成約80%=295,680円。500万円帯なら231,000円×35%×80%=64,680円です。こうしておくと、目標ROASの入札は「高い物件の訪問査定」を重く見て入札します。
表現と規制:売却の広告で気をつけること
売却の広告は、物件を売る広告ではないので公正競争規約の物件表示の細かい規定とは別ですが、景品表示法と宅地建物取引業法の考え方はそのまま効きます。
売却の広告で問題になりやすい点
- 「高く売れる」「査定額保証」:根拠を示せない「他社より高く売れる」は、優良誤認・有利誤認のおそれがあります。「査定額で必ず売れる」と受け取れる表現も避けます。
- 査定額の根拠:宅建業法では、媒介する価格について意見を述べる時は根拠を明らかにすることが求められています。媒介を取るために相場より高い査定額を出し、後から値下げを迫るやり方は、広告で集めた依頼の信頼を失います。
- 仲介と買取の区別:「買取」をうたって仲介に誘導する、またはその逆は、問い合わせ後のトラブルの元です。広告文・着地ページ・実際の提案を一致させます。
- 囲い込みの規制:2025年1月から、レインズへの取引状況(ステータス)の登録が法令上の義務になり、登録内容が事実と違う場合は指示処分の対象になりました。売主が取引状況を確認できる仕組みもできています。「両手」を前提にした集客は、制度の上でも通りにくくなっています。
800万円以下の物件の手数料の特例を使う場合は、着地ページや査定後の説明で「売主との合意が前提で、通常の上限を超える額になる」ことを明示します。広告で集めた依頼で、手数料の説明が後出しになるのは避けます。
配信開始から90日の手順
- 0日目まで:商圏の物件価格帯と過去の歩留まりから、価格帯ごとの査定依頼1件の価値と許容CPA、許容媒介単価を出す。クリックIDの保存、物件所在地を必須にしたフォーム、通話の計測を用意する。
- 1〜14日:地域名の付く語・事情の付く語を中心に出す。地域名の付く語のキャンペーンは「所在地または関心」の設定にする。検索語句レポートは毎日見て、語句を型ごとの広告グループに移す。
- 15〜45日:訪問査定に値を付けてオフラインCVとして戻し始める。査定依頼は観測用に切り替え、件数がたまったキャンペーンから訪問査定を成果にした入札にする。
- 46〜90日:語の型ごとに媒介単価を並べ、許容を超えた型は入札の上限を下げるか、着地ページを変える。商圏外の依頼の割合も同時に見直す。
チェックリスト
- 査定依頼1件の価値を、物件価格帯と自社の歩留まりから計算しているか
- 800万円以下の物件で、特例を使うかどうかを決め、説明の仕方をそろえているか
- 判断にCPAではなく、媒介1件あたりの費用を使っているか
- 査定・売却・事情・相場・買取の語を、別の広告グループかキャンペーンに分けているか
- 相場の語を除外せず、相場の答えを載せたページで受けているか
- 地域名の付く語の配信地域を、店舗の周辺の「所在地」だけに絞っていないか
- 査定フォームで物件の所在地と種別を取り、商圏外の依頼の割合を見ているか
- 学習させる成果を、査定依頼ではなく訪問査定(値付き)にしているか
- 「高く売れる」「査定額保証」など、根拠を示せない表現を使っていないか
- 広告文・着地ページ・実際の提案で、仲介と買取の区別が一致しているか
まとめ
不動産売却の広告は、査定依頼の数を増やす広告ではなく、媒介を増やす広告です。そして媒介1件の価値は、物件の価格と、依頼してきた人の事情で何倍も変わります。
見るべき数字は媒介単価、学習させるのは値を付けた訪問査定、配信地域は物件の所在地。一括査定サイトとビッグワードで競るのではなく、地域と事情で探している人を、事情に答えるページで受ける。この組み立てに変えるだけで、同じ広告費で取れる媒介の数は変わります。
リスティング広告の運用代行
御社の「媒介1件あたりの広告費」、一緒に出してみませんか。
当社のリスティング広告の運用代行では、物件価格帯と歩留まりから許容CPAを出し、Google・Yahoo!の検索広告のキーワード設計から、訪問査定・媒介を広告に戻す計測までまとめて担当します。運用手数料は広告費の10%(月額最低5万円・税別)。最初の60分の無料相談では、サービスの案内はせず、御社の査定依頼と広告の数字を一緒に見ます。
この記事を書いたチーム株式会社Acquizeの運用チーム。自社でもWeb広告で集客する事業を運営しながら、受託先の予算運用を担当しています。記事中の考え方は、実際の運用で使っているものです。

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