「春は問い合わせが来るのに、秋になると広告費だけが出ていく」。塾の広告の相談で、いちばん多い話です。原因の多くは、入塾1件に払える上限を、学年と入塾月で分けずに1つの数字で見ていることにあります。中1の4月に入る生徒と、中3の12月に入る生徒では、卒塾までに払ってもらえる授業料が4倍近く違います。この記事では、学年別の在籍月数から入塾1件の上限単価を出し、キーワード・季節・空席の3つで予算を決める手順を、計算式と数字で書きます。
この記事の結論
- 01入塾1件の上限は「卒塾までの授業料×限界利益率×広告に回す割合」で出す。説明用の例では、中1の4月入塾は約19.0万円、中3の12月入塾は約4.9万円まで下がる。
- 02キーワードは問い合わせ単価ではなく入塾単価で比べる。問い合わせ単価の差は約3倍でも、入塾まで見ると約6倍に開く。
- 03上限単価に余裕があっても、空席の数が予算の天井になる。席が埋まったクラスへの入塾は、新しいクラスの講師代で利益が半分以下になる。
塾の収支を、広告の言葉に置き換える
まず、塾の広告で使う言葉をそろえます。塾の広告の成果は「問い合わせ」ではなく「入塾」で、入塾の価値は「その生徒が卒塾までに払う授業料」で決まります。
問い合わせ単価
広告費 ÷ 問い合わせ(資料請求・面談予約・電話)の件数
管理画面でいちばん目に入る数字です。ただし、面談に来ない人・入塾しない人も1件として数えています。
入塾単価
広告費 ÷ 広告経由の入塾者数
塾の広告で本当に見る数字です。上限は、その生徒の卒塾までの授業料から逆算します。
集団指導の中学部を例に、数字を置きます(数字は説明用に整えたもので、地域や指導形態でかなり変わります)。月謝は中1が2万円、中2が2.2万円、中3が2.6万円。季節講習は夏・冬・春に別料金で、中3は夏期6万円・冬期4万円・1月の直前講習2万円です。年間の売上は、中1が29万円、中2が32.4万円、中3が43.2万円になります。
ここに退塾を入れます。中1・中2は毎月3%、中3は受験が近いので毎月1%が辞めると置きます。4月に入塾した生徒が、中3の3月の卒塾までに平均何か月在籍するかは、次の式で出せます。
期待在籍月数 = Σ(その月まで残っている確率)= Σ (1 − 月の退塾率)k
卒塾までの期待売上 = Σ(その月まで残っている確率 × その月の月謝+講習費)
| 4月に入塾した学年 | 期待在籍月数 | 卒塾までの期待売上 | 限界利益(75%) | 入塾1件の上限(40%) |
|---|---|---|---|---|
| 中1 | 22.8か月 | 約63.3万円 | 約47.5万円 | 約19.0万円 |
| 中2 | 18.1か月 | 約55.8万円 | 約41.9万円 | 約16.7万円 |
| 中3 | 11.4か月 | 約40.9万円 | 約30.7万円 | 約12.3万円 |
限界利益率75%は「今あるクラスの空席に1人入る時」の数字です。講師の給与と教室の家賃は、生徒が1人増えても変わりません。増えるのは教材・模試の原価と、個別の質問対応くらいです。広告に回す割合40%は、残りを教室の利益と、退塾後の口コミ・兄弟の入塾を見込まない保守側の余白として残す置き方です。
入塾1件に払える上限は、入塾月で下がっていく
上の表は4月入塾の数字でした。同じ計算を入塾月ごとにやり直すと、塾の広告の難しさがはっきりします。
入塾1件の上限 = 卒塾までの期待売上 × 限界利益率 × 広告に回す割合
中3・10月入塾 = 約21.1万円 × 75% × 40% = 約6.3万円
中1は1年を通して17〜19万円でほとんど動きません。卒塾まで2年以上あるからです。一方で中3は、4月の約12.3万円から、8月に約7.7万円、10月に約6.3万円、12月に約4.9万円、1月に約2.9万円と落ちていきます。8月と1月の段差は、夏期講習・冬期講習の売上を取り逃した分です。中3の夏に入る生徒を7月中に取れるか、8月にずれ込むかで、払える上限が約2.5万円変わります。
ところが、中3の検索が増えるのは秋から冬です。志望校を意識し始めた保護者が「高校受験 塾 ○○市」「冬期講習 中3」で探し始めます。検索が増えて競合も入札を上げる時期と、払える上限が下がる時期が重なる。中3の秋以降に、春と同じ目標CPAで入札していると、件数は取れても赤字の入塾が増えていきます。
この計算で外していること
- 中3で入塾した生徒が、高校部に上がって通い続ける分は入れていません。高校部がある塾は、中3の上限に高校部の継続率×高校部の売上を足します。
- 兄弟の入塾・紹介は入れていません。実績がある塾は、過去の在籍者から「1人の入塾が何人の紹介を生んだか」を出して上乗せできます。
- 退塾率は学年・時期で変わります。定期テストの結果が返ってくる月や、部活の大会前に辞める生徒が増える塾が多いので、自塾の在籍データで月ごとに出し直してください。
キーワードは「入塾単価」で比べる
塾の検索は、大きく保護者の検索と、生徒本人の検索の2系統に分かれます。広告費を払う判断をするのは保護者でも、最初に検索するのは生徒、ということも珍しくありません。

この違いは、問い合わせの先の数字に出ます。キーワードの型ごとに、クリック単価・問い合わせ率・面談に来る割合・入塾する割合を並べた例です(説明用の数字)。
| キーワードの型 | クリック単価 | 問い合わせ率 | 問い合わせ 単価 | 面談に 来る割合 | 入塾率 | 入塾単価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 地域+塾 (塾 ○○駅) | 300円 | 4.0% | 7,500円 | 85% | 55% | 約16,000円 |
| 学年・目的+地域 (高校受験 塾 ○○市) | 250円 | 3.5% | 約7,100円 | 85% | 60% | 約14,000円 |
| 定期テスト・成績 (定期テスト 対策 塾) | 200円 | 2.5% | 8,000円 | 75% | 45% | 約23,700円 |
| 料金を調べる語句 (塾 費用 中学生) | 180円 | 1.2% | 15,000円 | 60% | 35% | 約71,400円 |
| 他塾の評判 (○○塾 評判) | 230円 | 1.0% | 23,000円 | 70% | 40% | 約82,100円 |
問い合わせ単価だけ見ると、料金を調べる語句は「地域+塾の2倍」くらいに見えます。入塾まで見ると約4.5倍です。料金を調べる人は、資料を何社分も取り寄せて比べている最中で、面談に来ない割合が高いからです。
ここで図1と重ねます。料金を調べる語句の入塾単価は約7.1万円。中1・中2の上限(13〜19万円)には十分収まりますが、中3の10月以降の上限(約6.3万円以下)を超えます。つまり、同じキーワードでも「中1・中2向けなら出してよく、中3の秋以降は絞る」が正解になります。キーワードを一律に止めたり残したりするのではなく、学年と時期で分けて判断します。
学年で広告グループとLPを分ける
学年と時期で判断を変えるには、学年が分かる形で配信と計測を分けておく必要があります。当社がやっている分け方は次のとおりです。
- キャンペーンを「中学受験(小学部)」「中1・中2(定期テスト・内申)」「中3(高校受験)」「高校部(大学受験)」で分ける。予算と目標値を学年ごとに動かせるようにするためです。
- LPも学年ごとに分ける。中3向けのLPには、冬期講習の日程・志望校別のクラス・残り席数を載せます。中1向けは定期テスト対策と部活との両立の時間割です。
- 問い合わせフォームに学年の項目を必須で入れる。どのキャンペーンから来ても、問い合わせの時点で学年が分かれば、後から入塾単価を学年別に集計できます。
他塾の名前を含む語句の扱い
「○○塾 評判」「○○塾 料金」のような他塾の名前を含む語句は、入塾単価が高くなりがちです。比べている最中の人なので当然です。加えて、他塾の名前を広告文に入れるのは商標の問題になるので、キーワードとして入札するだけにして、広告文は自塾の強みで書きます。入塾単価が学年ごとの上限を超えていれば、その学年のキャンペーンから外します。
空席の数が、予算の天井になる
上限単価だけで予算を決めると、もう1つの制約を見落とします。教室の席の数です。
集団指導のクラスが定員20人、今の在籍が14人なら、空席は6席です。この6席を埋める入塾は、講師の給与も家賃も増えないので、限界利益率75%で計算できます。7人目からは話が変わります。新しいクラスを開くと、講師の給与と教室の使用時間が増えるので、増える利益は大きく減ります。
| 入塾の状況 | 限界利益率 | 中1・4月入塾の上限 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 空席がある(1〜6人目) | 75% | 約19.0万円 | 講師・家賃は増えない |
| 新クラスが必要(7人目以降) | 35% | 約8.9万円 | 新クラスの講師代を、入る人数で割って差し引く |
新クラスを開く場合の35%は、新クラスの講師代を「新クラスに何人入る見込みか」で割って差し引いた説明用の置き方です。新クラスに10人入る見込みならもっと高く、3人しか入らないなら赤字になります。
実務では、教室・学年・曜日ごとの空席数を月初に出し、広告の予算をその空席数から決めます。
その月の広告予算の上限 = 空席数 × 入塾1件の上限 × その月に入塾する割合
例:中1の空席6席 × 19.0万円 × 4月に埋まる見込み50% = 約57万円
個別指導の場合は「席」ではなく「講師のコマ数」が天井になります。講師1人で生徒2人を見る形なら、講師の空きコマ×2が空席です。春先は大学生講師の採用が追いつかず、広告で問い合わせを取っても授業を組めないことがあるので、講師の採用状況も予算の前提に入れます。
季節の山に合わせて、予算と目標値を動かす
塾の問い合わせには、はっきりした季節の山があります。新学年が始まる前の2〜3月、夏期講習前の6〜7月、冬期講習前の11〜12月です。山の時期に予算が足りないと、検索はあるのに広告が出ない状態になり、山を外すと1年分の入塾がそのまま減ります。
山の前に、予算で制限されていないかを確かめる
山の2〜3週間前に、Google広告のインプレッションシェア損失率(予算)を学年別のキャンペーンごとに見ます。損失率(予算)が大きいキャンペーンは、予算を足せば比較的安く問い合わせが増える状態です。逆に損失率(ランク)が大きい時は、予算ではなく入札か広告の品質の問題です。予算を足すかどうかの判断は、平均ではなく増分CPAで考える記事の手順をそのまま使えます。
中3は、7月と12月の締め切りから逆算する
図1の段差を思い出してください。中3は夏期講習・冬期講習の開始前に入塾してもらえるかで、払える上限が大きく変わります。講習の申込締め切りの3〜4週間前に予算の山を置き、締め切り後は中3キャンペーンの目標値を下げます。講習だけの受講(講習生)を受け付けている塾は、講習生から通常授業への継続率を出して、講習生の申込にも上限を付けます。
入塾までを広告に戻す計測
ここまでの判断は、すべて「どの広告から来た問い合わせが入塾したか」が分かることが前提です。塾は問い合わせから入塾まで、面談・体験授業をはさんで1〜3週間かかるので、管理画面の問い合わせの数だけでは判断できません。
- クリックIDを問い合わせと一緒に残す:フォームの隠し項目で広告のクリックID(gclid等)を受け取り、生徒管理の台帳に保存します。電話の問い合わせは、広告専用の番号で受けて、通話の記録と台帳をつなぎます。
- 面談の実施と入塾を、オフラインのコンバージョンとして戻す:台帳で「面談に来た」「入塾した」に変わった問い合わせを、クリックIDと一緒に毎日広告へ戻します。
- 学年を一緒に戻す:入塾に、学年と入塾月から出した上限単価に比例する「価値」を付けて戻すと、目標ROASの入札で学年ごとの重みを付けられます。
ただし、教室単位で見ると入塾は月に数件です。自動入札の学習には、直近30日で30件程度の成果がひとつの目安と言われてきました。入塾だけでは足りないことが多いので、件数が足りるまでは面談の実施を学習させ、入塾は観測用に置くのが現実的です。問い合わせ(資料請求)を学習させると、資料だけ取り寄せる人に入札が寄っていきます。この問題はMCVで学習させるリスクの記事で詳しく書いています。
件数が少ない時期に自動入札が合っているかどうかも、実績で確かめます。当社の自社運用でも、管理画面の履歴に残らない入札方式の切替を実績データから特定して期間ごとに比べたところ、手動入札の期間だけ広告費の約2倍の売上(ROAS約200%)だったことがあります。季節の山が重なっていないかも分けて評価しました。塾は季節の山が大きいので、入札方式の比較は「同じ季節どうし」で行わないと、山の効果を入札方式の効果と取り違えます。
塾の広告とLPで注意する表示
塾の広告は、景品表示法に加えて、特定商取引法の「特定継続的役務提供」の対象になることがあります。表示の書き方で問題になりやすいのは次の点です。
表示で確認しておきたい点
- 合格実績の数え方:講習だけ受けた生徒、模試だけ受けた生徒、系列の別教室の生徒を合格者に含めると、実際より優れていると誤認させる表示(景品表示法の優良誤認)になるおそれがあります。合格実績を載せる時は、何をもって自塾の合格者と数えたか(在籍期間など)を明記します。
- 順位や最上級の表示:「地域で1位」「満足度1位」などの表示は、何を・いつ・どの範囲で調べたかの根拠が必要です。根拠を示せない順位表示は使いません。
- 特定継続的役務提供の対象になる契約:学習塾は、期間が2か月を超え、入塾金・授業料・教材費などの総額が5万円を超える契約が対象です。契約書面を受け取ってから8日間はクーリング・オフができ、その後も中途解約ができます。解約時に請求できる額の上限は、授業開始前は1万1,000円、開始後は「提供済みの授業の対価」に「2万円か1か月分の授業料相当額の低い方」を足した額です。LPで「いつでも辞められます」と書く場合も、この内容と矛盾しない書き方にします。
- キャンペーンの期限:「入塾金無料」「講習無料」の期限が切れたまま広告やLPに残っていると、表示と実際の条件が食い違います。季節ごとに期限を一覧にして、締め切りの翌日に差し替えます。
もう1つ、Google広告は18歳未満と推定される利用者に対して、広告のカスタマイズ(興味関心などに基づく配信)を無効にしています。中高生本人に向けて、興味関心やリマーケティングで追いかける設計はそもそも効きにくいということです。生徒本人の検索は検索広告で受け、追いかける配信は保護者向けに設計するのが前提になります。
塾の広告で実際に起きる落とし穴
問い合わせ単価が下がったのに、入塾が減る
料金を調べる語句や資料請求のボタンが増えると、問い合わせ単価は下がります。ところが面談に来ない人が増えるので、入塾は減ります。問い合わせを学習させている自動入札ほど起きやすい現象です。週次のレポートには、問い合わせ単価と並べて、必ず学年別の面談率と入塾率を載せます。
中3の冬に、春と同じ目標値のまま入札している
図1のとおり、中3の上限は12月には4月の約4割です。目標値を変えないまま冬の山に入ると、件数は増えても、1件あたりの利益はほとんど残りません。中3キャンペーンの目標値は、講習の締め切りごとに見直します。
商圏の外に広告が出ている
中学生は徒歩か自転車で通える範囲の塾を選ぶのが普通です。地域の設定が「ターゲット地域に関心を示しているユーザー」まで含む設定のままだと、通えない地域の保護者にも広告が出ます。地域の設定は「所在地(ターゲット地域に所在地がある、または定期的に訪れているユーザー)」にし、教室から半径2〜3km程度を基本に、駅・学区の実際の通塾範囲に合わせて調整します。配信後は、地域別のレポートで問い合わせが出ない地域を確認します。
講習生と通常の入塾を同じ1件で数えている
講習だけの申込と、通常授業への入塾を同じコンバージョンで数えると、講習の時期だけ件数が跳ね、入塾単価が実際より安く見えます。講習の申込と、通常授業への入塾は、別のコンバージョンにして、講習生から入塾した割合を別に出します。
現場で使っているチェックリスト
- 入塾1件の上限を、学年と入塾月ごとに、卒塾までの期待売上から出しているか
- 退塾率を、自塾の在籍データで学年・時期別に出し直しているか
- キャンペーンとLPを学年別に分け、問い合わせフォームで学年を取っているか
- キーワードを、問い合わせ単価ではなく入塾単価で比べているか
- 中3キャンペーンの目標値を、夏期・冬期講習の締め切りごとに見直しているか
- 月初に、教室・学年・曜日ごとの空席数(個別指導なら講師の空きコマ)を出し、予算の上限にしているか
- 季節の山の2〜3週間前に、損失率(予算)と(ランク)を確認しているか
- クリックIDを残し、面談の実施と入塾を毎日広告に戻しているか
- 合格実績の数え方・順位表示の根拠・キャンペーンの期限を、広告とLPで確認したか
- 地域の設定を「所在地」にし、実際の通塾範囲に合わせているか
まとめ
塾の広告で一番の失敗は、入塾1件に払える上限を1つの数字で持つことです。中1の4月に入る生徒と中3の冬に入る生徒では、卒塾までの授業料が4倍近く違います。学年と入塾月で上限を出し、キーワードを入塾単価で比べ、空席の数を予算の天井にする。この3つをそろえるだけで、「春は良いのに秋は赤字」という状態はかなり抑えられます。
そのためには、どの広告から来た生徒が入塾したかを、学年付きで広告に戻す仕組みが要ります。手間はかかりますが、一度つないでしまえば、季節ごとの予算の判断が毎年同じ手順でできるようになります。
リスティング広告の運用代行/計測設計
御社の教室の「入塾1件の上限」を、学年別に一緒に出しませんか。
当社の予算運用では、在籍データから学年・入塾月ごとの上限単価を出し、学年別のキャンペーン設計から、面談・入塾のデータを広告に戻す計測までまとめて担当します。運用手数料は広告費の10%(月額最低5万円・税別)。最初の60分の無料相談では、サービスの案内はせず、御社の数字を一緒に見ます。
この記事を書いたチーム株式会社Acquizeの運用チーム。自社でもWeb広告で集客する事業を運営しながら、受託先の予算運用を担当しています。記事中の考え方は、実際の運用で使っているものです。

コメント