「ヨガスタジオでリスティング広告を出したら、体験予約は月20件入った。でも会員数はほとんど増えていない」。ヨガ教室の広告相談では、この話がいちばん多く出てきます。原因は広告の設定より手前にあることがほとんどで、体験予約1件にいくらまで払えるかを、退会率から逆算していないことです。この記事では、ヨガスタジオの月会費・退会率・来店率・入会率から上限の単価を出し、その数字を基準に、キーワード・商圏・季節・計測・広告表現をどう組むかを、実際の検索データと計算例で書きます。
この記事の結論
- 01体験予約1件に払える上限は「月会費×限界利益率÷月の退会率×広告に回す割合×来店率×入会率」で決まる。退会率が6%から10%に上がるだけで、上限は14,000円から8,400円まで下がる。
- 02「ヨガ」の検索は全国で月11万回あっても、人口15万人の商圏で割ると来店を考えている人の検索は月30回前後しかない。キーワードを絞るより、地域を絞って広い語で拾う方が件数は出る。
- 03評価は体験予約のCPAで止めず、距離別・キーワード別の入会1件あたりの費用で見る。3km以上離れた人の体験予約は、安く取れていても入会単価が許容の上限を超えやすい。
ヨガスタジオの収支を、広告の言葉に置き換える
広告の設定に入る前に、スタジオの収支を「1人の会員がいくらの利益を残すか」という数字に直します。ここが決まらないと、目標CPAも予算も根拠のない数字になります。
限界利益(会員1人あたり)
月会費(税抜)−会員が1人増えて増える費用
家賃やインストラクターの固定給は、会員が1人増えても変わりません。増えるのはタオル・決済手数料・予約システムの従量課金くらいです。定員に余裕がある間は、月会費の8割前後が残る計算になることが多いです。
平均在籍月数
1 ÷ 月の退会率
月に在籍者の6%が退会するなら、1人の平均在籍は約16.7か月。会員1人が残す利益の合計(LTV)は、限界利益にこの月数を掛けて出します。
月会費の水準は、公開されている料金表を見ると、通い放題で月7,000〜13,000円前後、入会金は無料から1万円程度、体験レッスンは1,000円前後という例が多く見られます。この記事では、計算を見やすくするために月会費1万円(税抜)・限界利益率80%を説明用の前提として使います。御社の数字に置き換えて読んでください。
会員1人のLTV = 月会費(税抜)× 限界利益率 ÷ 月の退会率
10,000円 × 80% ÷ 6% = 約133,300円
体験予約1件に払える上限を出す
広告で取れるのは入会ではなく、体験予約です。体験予約から入会までの間で、2回ふるいにかかります。予約した人が当日来るか(来店率)と、来た人がその場か数日以内に入会するか(入会率)です。

入会1件に払える上限(許容CPO)= LTV × 広告に回してよい割合
体験予約1件に払える上限(許容CPA)= 許容CPO × 来店率 × 入会率
133,300円 × 35% = 46,700円 → 46,700円 × 75% × 40% = 約14,000円
「広告に回してよい割合」は、LTVのうちどれだけを新規獲得に使ってよいかという経営判断です。紹介やSNSなど広告以外の入会経路がある程度あるスタジオなら3〜4割、広告がほぼ唯一の経路なら少し上げても回ります。ここでは35%で計算しています。
この式でいちばん効いてくるのが退会率です。他の数字を固定して、退会率だけを動かすとこうなります。
| 月の退会率 | 平均在籍 | LTV | 入会1件の上限 | 体験予約1件の上限 |
|---|---|---|---|---|
| 4% | 25.0か月 | 200,000円 | 70,000円 | 21,000円 |
| 6% | 16.7か月 | 133,333円 | 46,667円 | 14,000円 |
| 8% | 12.5か月 | 100,000円 | 35,000円 | 10,500円 |
| 10% | 10.0か月 | 80,000円 | 28,000円 | 8,400円 |
退会率4%のスタジオは体験予約に21,000円まで払えますが、10%のスタジオは8,400円が上限です。同じ地域で同じキーワードに入札していても、退会率の低いスタジオの方が高く入札できるので、オークションでは自然に勝ちます。広告の勝ち負けが、レッスンの質と会員対応で決まっている部分がかなりある、ということです。
退会率は「在籍者の平均」ではなく「入会した月ごと」に見る
多くのスタジオで、退会は入会直後に集中します。在籍者全体の退会率が6%でも、新しく入った人だけを見ると、最初の3か月は月15%、そこを越えると月4%に落ち着く、という形はよくあります。入会した月ごとに、何か月後に何割が残っているかを並べると違いが見えます。
橙の形のスタジオでは、平均在籍は約17.9か月で、一定6%の場合と大差ありません。ただ、入会から3か月の間に4割近くが抜けます。この形の時に効くのは、広告ではなく入会後3か月の定着です。最初の3か月の退会を15%から10%に下げられれば、平均在籍は約20.9か月に延び、体験予約1件の上限は約15,100円から約17,600円へ、17%ほど上がります。入会特典を厚くするより、2回目・3回目の予約を取りやすくする方が、広告の上限単価に効くことが多いのはこのためです。
| 入会後の退会の形 | 3か月後の在籍 | 平均在籍 | 体験予約1件の上限 |
|---|---|---|---|
| 毎月6%で一定 | 83% | 16.7か月 | 14,000円 |
| 最初の3か月15%・以降4% | 61% | 17.9か月 | 約15,100円 |
| 最初の3か月10%・以降4% | 73% | 20.9か月 | 約17,600円 |
キーワードは「商圏で割った検索数」で考える
次にキーワードです。Googleのキーワードプランナーで、全国の月間検索数(2025年10月〜2026年9月の平均)を見ると、ヨガ関連の検索は大きく4つの層に分かれます。
| 層 | キーワードの例(全国の月間検索数) | 体験予約との距離 |
|---|---|---|
| 主題そのもの | ヨガ(110,000) | 混ざっている。地域で絞れば教室探しが多く残る |
| 教室を探している | ヨガスタジオ(9,900)/ヨガ 教室(8,100)/ヨガ 教室 近く(3,600)/ヨガ 近く(1,900)/ヨガ 体験(1,000) | 近い |
| 目的・対象 | マタニティヨガ(6,600)/ヨガ 初心者(3,600)/ヨガ 産後(590)/常温ヨガ(260) | スタジオの強みと合えば近い |
| 自分でやる・学ぶ | ヨガ ポーズ(14,800)/ヨガ 効果(5,400)/ヨガ 資格(1,600)/ヨガ 動画(1,600) | 遠い。検索語句で確認して判断 |
この数字は全国の合計です。1つのスタジオが広告を出すのは、通える範囲だけです。仮に商圏の人口を15万人とし、検索が人口に比例すると置くと、全国約1億2,400万人に対する比率は約0.12%です。
商圏での月間検索数 ≒ 全国の月間検索数 × 商圏の人口 ÷ 全国の人口
「ヨガ 教室 近く」3,600回 × 15万人 ÷ 1億2,400万人 ≒ 月4.4回
| キーワード | 全国の月間検索数 | 人口15万人の商圏での目安 |
|---|---|---|
| ヨガ | 110,000 | 約133回 |
| ヨガスタジオ | 9,900 | 約12.0回 |
| ヨガ 教室 | 8,100 | 約9.8回 |
| ヨガ 教室 近く | 3,600 | 約4.4回 |
| ヨガ 近く | 1,900 | 約2.3回 |
| ヨガ 体験 | 1,000 | 約1.2回 |
| 教室を探している層の合計 | 24,500 | 約30回 |
教室を探している層を全部足しても、商圏の中では月30回前後です。都市部は検索が人口比より多めに出るので実際はもう少し増えますが、それでも「ヨガ 教室 ○○駅」のような細かいキーワードを何十個も並べても、ほとんど表示されない、というのがヨガ教室の広告の実情です。
そこで当社は、地域をしっかり絞ったうえで、「ヨガ」の1語もインテントマッチ(旧・部分一致)で入れる形から始めます。商圏の中で「ヨガ」と検索する人は、全国平均よりずっと教室探しの比率が高いからです。そのうえで、配信後2週間ほどたったら検索語句レポートを開き、ポーズ・動画・資格のような「自分でやる・学ぶ」層の語句にどれだけ費用が出ているかを見て、実際に無駄が出ている語句だけを除外します。最初から除外を並べると、「ヨガ ポーズ 初心者 教室」のような教室探しまで落とすことがあるためです。
料金を調べている検索にも注意が要ります。当社の自社運用で、ROASが目標に届かないキャンペーンの検索語句を分類したところ、29%が価格・相場を調べる語句だったことがあります。「ヨガ 料金」「ヨガ 月謝 相場」で来る人に、体験の申込みを前面に出した広告文を見せても反応は鈍く、料金表を先に見せた方が予約につながりました。料金の検索が多いスタジオは、広告文の見出しに月会費の金額をそのまま入れるのが有効です。
ホットヨガのキーワードに、常温のスタジオが入らない
「ホットヨガ」は全国で月49,500回と大きく、キーワードプランナーの「ページ上部入札単価(高額帯)」は535円、「ホットヨガ 体験」は1,537円です。常温のヨガ(ヨガ 教室は291円、ヨガ 教室 近くは225円)と比べると、大手チェーンが体験の獲得に強く入札している市場です。常温のスタジオがここに入ると、クリック単価が高いうえに、来店しても「思っていたのと違う」で入会しません。扱っていないレッスンの語句は、配信後の検索語句で確認したら早めに除外します。
商圏の切り方と、距離別の入会単価
地域の設定は、スタジオを中心にした半径か、市区町村・郵便番号の単位で指定します。Google広告の半径指定は1km単位から設定できます。あわせて、地域のオプションを「所在地」(ターゲット地域にいる、または定期的にいるユーザー)にしておきます。初期設定の「所在地または関心」のままだと、商圏の外に住んでいて、その地域について調べただけの人にも表示されます。
距離の上限は、体験予約の単価ではなく入会の単価で決めます。体験予約のフォームで最寄り駅か町名を必須で聞き、予約1件ごとに距離を記録して、1か月分を集計した例です(数値は説明用に整えたものです。平均クリック単価250円・来店率75%で計算)。
| スタジオからの距離 | 広告費 | 体験予約 | 体験予約1件 | 入会率 | 入会 | 入会1件あたり |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1km以内 | 75,000円 | 24件 | 3,125円 | 50% | 9.0件 | 8,333円 |
| 1〜2km | 87,500円 | 25件 | 3,500円 | 40% | 7.5件 | 11,667円 |
| 2〜3km | 62,500円 | 15件 | 4,167円 | 28% | 3.2件 | 19,841円 |
| 3km以上 | 75,000円 | 12件 | 6,250円 | 15% | 1.3件 | 55,556円 |
体験予約の単価だけ見ると、3km以上でも6,250円で、先ほどの上限14,000円の半分以下です。ところが入会1件あたりでは55,556円で、許容CPOの46,700円を超えています。遠い人は体験には来ても、「毎週通うには遠い」で入会しないからです。この表が作れて初めて、半径を何kmにするかが決まります。駅前のスタジオで、勤務先が近い人が多い場合は、住所ではなく「どこから通う予定か」を聞くと実態に合います。
季節の山に合わせて、予算と枠を準備する
「ヨガ」の全国の月間検索数を月別に並べると、1月と5月が135,000回、7〜9月と11〜12月が90,500回で、山と谷の差は約1.49倍です。
検索が増える月は、競合も予算を上げるのでクリック単価も上がりますが、体験予約の件数も増えます。気を付けたいのは、体験の枠が足りなくなることです。1月に広告で体験予約が増えても、体験できるレッスンが平日夜の2枠しかなければ、予約は2〜3週間先になり、その間に他のスタジオに行かれます。山の月の1か月前には、体験を受け入れられるレッスンの数と、体験当日の入会説明ができるスタッフの配置を決めておきます。
予算は、年間の総額を月の検索数の比率で配るのが基本です。年120万円なら、平均10万円の月に対して、1月・5月は約12.7万円、谷の月は約8.5万円が目安になります。ただし、上限は体験の枠で決まります。枠が埋まっている時間帯に広告を出し続けると、予約が取れずに離脱する人に広告費を払うことになるので、混み合う時間帯は広告のスケジュールで入札を下げます。
体験予約の先まで計測する
ここまでの計算は、体験予約・来店・入会を1件ずつ追えていることが前提です。最低限、次の3つを用意します。
- 体験予約の完了をコンバージョンにする:予約完了ページの表示で1件。確認メールの再表示やページの再読み込みで二重に数えないよう、Google広告のカウント方法は「1回」にしておきます。
- 予約データに広告のクリックIDを残す:予約フォームに隠し項目を作り、URLのgclidを保存します。外部の予約システムで隠し項目が使えない場合の対処は、ピラティス教室の広告の記事で詳しく書いています。
- 来店と入会を広告に戻す:体験当日の受付で来店・入会を記録し、クリックIDと一緒にオフラインコンバージョンとして取り込みます。件数が少ないうちは入札に使わず、キャンペーン・キーワード・距離ごとの入会単価を見るための列として使います。
入会の件数が月に数件しかないスタジオで、入会を成果にした自動入札を回すのは無理があります。最初は上限クリック単価を決めた入札で、検索語句と距離を人が見て絞り、体験予約が月30件前後に届いてから、体験予約を成果にした自動入札に切り替えるのが現実的な順番です。
広告文とLPで使えない表現
ヨガは体の変化を期待して始める人が多いので、広告文やLPが効果を言い切る方向に寄りがちです。景品表示法と媒体のルールで、注意する所は決まっています。
| よくある表現 | 何が問題か | 書き換えの例 |
|---|---|---|
| 「3か月で必ず−5kg」 | 効果の言い切り。合理的な根拠が無いと優良誤認になるおそれ | 「週2回・60分の常温クラス」と内容を具体的に書く |
| 「腰痛・肩こりが治る」 | 病気の治療をうたう表現。医療行為と誤認させる | 「体を動かす習慣づくりに」など、治療と読めない書き方 |
| 「通常入会金11,000円→今なら0円」 | 実際にその価格で入会を受けていた期間が短いと、有利誤認になるおそれ | 入会金0円が常態なら、比較を出さず「入会金0円」とだけ書く |
| 「口コミ投稿で1回無料」 | Googleの口コミのポリシーで、特典と引き換えの投稿は禁止 | 特典を付けずに投稿をお願いする |
効果をうたう表現について、消費者庁は「合理的な根拠を示す資料」の提出を求めることができ、提出期限は求められた日から15日です(不実証広告規制)。期限内に出せなければ、不当表示とみなされます。「個人の感想です」と添えても、この判断は変わりません。
価格の比較表示は、消費者庁の価格表示ガイドラインで、比べる元の価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」かどうかが問われます。目安としてよく使われるのが、セール前の8週間のうち過半の期間、その価格で売っていたかどうかです。入会金0円のキャンペーンを1年中続けているなら、「通常11,000円」と並べて書くのはやめた方が安全です。
インストラクターや会員にSNSで紹介してもらう場合は、2023年10月1日から施行されたステルスマーケティングの規制が関係します。スタジオが依頼した投稿であることが分かる表示(PR等)が無いと、スタジオ側の不当表示になります。
ヨガ教室の広告で実際に起きる落とし穴
体験予約のCPAが下がったのに、入会が減る
自動入札に体験予約だけを学習させると、予約しやすい人、つまり遠い人・料金を見比べている人・体験だけ受けたい人にも配信が広がります。体験予約の単価が下がった月に入会率が落ちていないかを、必ず並べて見ます。この問題の仕組みは、中間地点で学習させる入札のリスクの記事と同じです。
無断キャンセルが多い時間帯に広告を寄せている
来店率は時間帯で大きく違います。平日朝の体験は来店率が高く、土日の昼は予約が多い代わりに直前のキャンセルが増える、というスタジオは珍しくありません。予約時刻ではなく、体験の実施枠ごとの来店率を出しておくと、広告で寄せるべき枠が分かります。前日のリマインド連絡だけで来店率が上がることも多いので、広告を足す前に試す価値があります。
Googleビジネスプロフィールと広告で料金が違う
地図の検索結果から来る人は、広告より先にGoogleビジネスプロフィールの料金や写真を見ています。広告文が「体験500円」、プロフィールが「体験1,000円」のままだと、不信感で離脱します。料金を変えた日には、広告文・LP・プロフィール・予約システムの4か所を一度に直します。
現場で使っているチェックリスト
- 月会費・限界利益率・退会率から、会員1人のLTVを出しているか
- 来店率・入会率を、体験の実施枠ごとに集計しているか
- 体験予約1件の上限(許容CPA)を、式で出してから入札を決めているか
- 退会率を、在籍者の平均ではなく入会した月ごとに見ているか
- 地域のオプションを「所在地」にしているか
- 予約フォームで最寄り駅か町名を聞き、距離別の入会単価を出しているか
- 「ヨガ」の1語を地域を絞って入れ、検索語句を見てから除外を決めているか
- 扱っていないレッスン(ホットヨガ等)の語句に費用が出ていないか
- 季節の山の1か月前に、体験の枠と予算を決めているか
- 広告文・LP・ビジネスプロフィールの料金と表現が一致しているか
まとめ
ヨガスタジオの広告は、キーワードや広告文の工夫より先に、体験予約1件にいくら払えるかで勝負が決まっています。その上限は退会率でほぼ決まり、退会率が低いスタジオほど高く入札でき、同じ地域の広告でも有利になります。
広告の側でやることは、商圏の中で広い語を拾い、距離と検索語句ごとの入会単価を見て絞ることです。体験予約の件数ではなく、入会と継続まで数字をつなげて、初めて広告費の使い道に根拠が持てます。
リスティング広告の運用代行
御社のスタジオの「体験予約1件の上限」から、一緒に計算しませんか。
当社の予算運用では、退会率や入会率から許容単価を出し、地域・キーワードの設計から、体験予約・入会のデータを広告に戻す計測までまとめて担当します。運用手数料は広告費の10%(月額最低5万円・税別)。最初の60分の無料相談では、サービスの案内はせず、御社の数字を一緒に見ます。
この記事を書いたチーム株式会社Acquizeの運用チーム。自社でもWeb広告で集客する事業を運営しながら、受託先の予算運用を担当しています。記事中の考え方は、実際の運用で使っているものです。

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